東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2398号 判決
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(事実)
被控訴人は昭和二十六年一月十三日控訴人から杉丸太を買受ける旨の契約を締結し、即日前渡金三十万円を支払つたが、控訴人が右売買契約にもとずく履行をしないので、被控訴人は右売買契約を解除し、控訴人に対し前渡金三十万円の返還を求めたのに対し、控訴人は、右売買契約は形式上被控訴人と控訴人間の契約となつているが、真実は訴外広田保重又は同人及び被控訴人と訴外越川米作間の売買契約である。被控訴人と控訴人間の契約としては、控訴人は契約に際し契旨にもとずく売主としての法律的責任を負担する意思がなく、その真意は相手方たる被控訴人もこれを知り自らも約旨のような契約をする真意がなかつたものであり、少くとも控訴人の真意を知り得べかりしものであるから、通謀虚偽表示又は心裡留保として無効であると主張した。原審控訴人(被告)敗訴。
(判斷)
控訴棄却。判決は次の如く事実の認定及びこれにもとずく判断をした。
「……右売買ははじめ越川米作が広田保重に対し、……杉丸太一千石があるから買わないかと申入れ、広田はその数量が自己の手に余るところからこの話を被控訴人に取次いだところ、被控訴人は従越川を知らず信用しかねてこれに応じなかつたのであるが、越川は友人の鶴見迪夫を通じて木材商として相当信用のある控訴人の代表取締役である小川栄に対し、控訴人には迷惑をかけないから控訴人の信用によつて右杉丸太の売買を成立させるために控訴人の名義を貸して貰いたいと賴み、右小川は長年の友人である鶴見を通じての賴みを拒みかねて売主の地位に立つことを承諾したので、一方被控訴人においても控訴人が売主となるならば安心して取引ができるとして本件売買契約が成立したものであることを認めることができる。
およそ取引社会で、一定の資格のある者でないため取引ができず、又は或る者に信用がないため、その名においては取引ができないというような場合に、法律上特段の定めのある場合は別として、一定の資格又は信用ある者がその者に代つて当該取引の当事者たる地位に立ち、所期の取引を成立させる事例は極めて多く見るところであつて、このような関係で自己の名において当事者となることを承諾する者は、自ら相手方その他第三者に対する関係においては、あくまで自己がその取引の主体として法律上の権利義務を取得する地位につくことを承認するものであつて、ただ、その取引の結果の経済上の利害を自己が代つてやつたその者に帰属させるに過ぎず、この相手方においても、他に経済上の利害の主体の存することを知つていると否とにかかわらず、いやしくも自己の名において取引の主体となる者は右のような法律上の地位に立つものであることを承認してその取引を成立せしめるものであるから、契約は常にその名において当事者となつた者と相手方との間に有効に成立するのである。もしこのような場合、名義人の外に経済上の主体があつて、名義人は契約上の責任を負わないとするならば、相手方は常にその関係を調査しなければならず、善意の場合はともかく、いやしくもその関係を知るにおいては取引に応ずる筈がなく、そもそもこのような名義人となること自体が無く無意義とならなければならない。(このことは自ら資力ある者がその法律上の責任を回避するため無資力の名義人を立て若しくは仮設人の名義をもつてする場合とは同日に論ずることを得ない)。右認定の本件の事情のもとにおいては、控訴人としてはここに説明したような意味において契約の当事者となつたものと解すべきであるから、これをもつて通謀虚偽表示であるとか心裡留保であるとか主張するのは失当であつて、右売買契約は被控訴人と控訴人間に有効に成立し、控訴人はその法律上の責任を否定することはできないといわなければならない。」